クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集める仕組みです。支援者へのリターンの違いによって、「購入型」「寄付型」「金融型」に分かれます。
このうち、資金提供の対価としてモノやサービスといった「リターン」を受け取れるのが「購入型クラウドファンディング」です。
購入型クラウドファンディングの直接的なメリットは、商品を作る前に資金を集められることですが、本質的なメリットは、発売前に新商品の需要を調べられ、広告費をかけずに認知を広げられることです。売れるかどうかを確かめ、最初の顧客を得られる点に、資金以上の価値があります。
そして、クラウドファンディングで確かめた需要と、獲得した顧客や実績をEC事業の起点として、自社ECやモールでの継続販売につなげることで、一度きりのプロジェクトで終わらせずに、EC事業として売上を伸ばしていくことができます。
この記事では、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、購入型クラウドファンディングの基本から、実施方式やサービスの選び方、具体的な施策まで、EC事業におけるクラウドファンディングの活用方法について詳しく解説します。
クラウドファンディングを活用した企業事例:Panasonic「NICOBO」
まずは、実際にクラウドファンディングを活用し、EC展開へつなげた企業事例を紹介します。
パナソニックは、コミュニケーションロボット「NICOBO(ニコボ)」の市場展開にあたって、まずはクラウドファンディングを実施しました。クラウドファンディングから一般販売までの経緯は、以下の通りです。
◆クラウドファンディングからEC展開までの経緯
・2022年:クラウドファンディングの支援者への出荷を開始
・2023年:一般販売を開始し、現在は自社EC「Panasonic Store Plus」で継続販売
このプロジェクトの目的は「市場性の検証」です。いきなり量産して販売するのではなく、まず需要があるかを確かめる場としてクラウドファンディングを使い、そこで得た反応と実績をもとに量産へと進みました。
実際に、支援者から多くの共感の声が集まり、国内外のメディアでも報道されました。その後、支援者への出荷を経て、自社ECでの一般販売へとつなげています。
◆NICOBOのプロジェクトページ(Makuake)
出典(画像):Makuake
NICOBOはパナソニックという大企業の事例ですが、この事例から読み取れる流れは規模を問いません。
クラウドファンディングで需要と最初の顧客、そして実績を得て、それを自社ECでの継続販売につなげるという順番でクラウドファンディングを起点にすれば、一度きりのプロジェクトで終わらせずに、EC事業へと育てることができます。
参考:
・PR TIMES(パナソニックグループ)「“弱いロボット”『NICOBO(ニコボ)』のクラウドファンディングを達成し、支援者向け量産を決定」(2021年3月19日)
・NICOBO(ニコボ)公式サイト
クラウドファンディングは「新商品の認知拡大」に活用できる
クラウドファンディングは、支援者へのリターンの違いによって、購入型・寄付型・金融型に分かれますが、資金提供の対価としてモノやサービスを受け取れる(リターン)のが「購入型クラウドファンディング」です。国内のクラウドファンディングでは、この購入型が大半を占めます。
◆購入型クラウドファンディングの仕組み
出典(画像):筆者作成
プロジェクトを立ち上げる実行者(起案者)がプラットフォームにプロジェクトを掲載し、支援者が資金を提供します。実行者は、その対価としてモノやサービスをリターンとして支援者に届けます。
この「支援者から資金を先に受け取り、後からリターンを届ける」という流れが、購入型クラウドファンディングの基本的な形です。
この仕組みは、商品を対価として提供するという点でECと共通します。ただし、両者の役割は以下のように異なります。
◆購入型クラウドファンディングとECサイトの役割の違い
| 購入型クラウドファンディング | EC(自社EC・モール) | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 資金調達、テストマーケティング、話題づくり | 継続的な商品販売と売上づくり |
| 商品の状態 | 開発前や試作の段階でも先行して販売できる | 完成した商品を在庫として販売する |
| 販売期間 | プロジェクト単位の期間限定 | 期間の区切りなく継続する |
| 集まる人 | プロジェクトに共感した支援者 | 商品を探している購入者 |
クラウドファンディングは、新商品の需要をまだ確かめられていない段階で、その商品の認知を広げながら、資金と市場の反応を同時に得るのに向いています。
プロジェクトが注目を集めれば、まだ商品を知らない人にも新商品の存在が届きます。一方のECは、需要がある程度見えた商品を、継続的に売って収益にしていく段階に適しています。
役割が違うからこそ、クラウドファンディングで広げた新商品の認知と、確かめた需要、そして獲得した最初の顧客を、ECでの継続販売に引き継ぐことができます。つまりクラウドファンディングは、新商品の認知を広げる場であると同時に、その先のEC事業を始める起点にもなるのです。
参考:中小企業庁 ミラサポplus「不特定多数の人から資金を調達『クラウドファンディング』」
クラウドファンディングの2つの実施方式「All-or-Nothing型」「All-in型」
購入型クラウドファンディングでプロジェクトを実施する際、実施方式は「All-or-Nothing型」と「All-in型」の2つがあります。どちらを選ぶかは、目標未達のときの扱いと、EC展開で何を優先するかによって変わります。
◆All-or-Nothing型とAll-in型の違い
| All-or-Nothing型 | All-in型 | |
|---|---|---|
| 支援金の受け取り | 目標を達成した場合のみ受け取れる | 達成の有無にかかわらず、集まった分を受け取れる |
| 目標未達のとき | 不成立となり、支援金は返還される | 成立し、集まった分でプロジェクトを実行する |
| リターンの提供義務 | 目標達成後に発生する | 支援が1件でもあれば発生する |
| 向いている場面 | 新商品の需要検証、初めての挑戦 | 目標未達でも資金を確保したい場合、確実にリターンを届けられる場合 |
以下に、それぞれの方式について解説します。
市場調査を兼ねる場合は「All-or-Nothing型」
All-or-Nothing型は、期間内に目標金額を達成した場合に、集まった金額を受け取れる方式です。
目標に届かなければ不成立となり、支援は返金されます。目標を達成した場合は、リターンを届ける義務が発生します。
この方式の特徴は、目標を達成しなければ成立しない点です。裏を返すと、一定の需要ラインを超えられるかどうかを、そのまま確かめられます。ECで本格的に売り出す前に、その商品に需要があるかを見極める市場調査として機能します。
目標を超えて支援が集まった実績は、ECサイトで販売する際の裏づけにもなります。まだ売れるかどうか読めない新商品を試すときに向いています。
少しでも事業資金を獲得したい場合は「All-in型」
All-in型は、目標金額の達成の有無にかかわらず、終了日までに集まった金額を受け取れる方式です。
最大のメリットは、少しでも支援が入れば、その分がそのまま事業資金になる点です。目標に届かなかった場合でも、集まった資金は返金されず、プロジェクトの実行に充てられます。新商品の生産や販売の準備には資金がかかるため、確実に資金を確保できることは大きな利点です。
一方で、支援が1件でもあればリターンを届ける義務が発生します。目標に届かなくてもプロジェクトを実行するため、需要が読みきれないまま生産や在庫の準備を進めることにもなります。
そのため、すでにある程度需要が見えている商品や、確実にリターンを提供できる体制が整っている場合に向いています。
つまり、これから需要を確かめたい段階なら市場調査を兼ねられるAll-or-Nothing型、確実に資金を確保して前に進めたい段階ならAll-in型、という選び分けができます。
主要な購入型クラウドファンディング3サイト
ここで、クラウドファンディングの主要な3つのサービスを紹介します。いずれも購入型ですが、得意なジャンルや手数料、実施方式に違いがあります。
◆主要な購入型クラウドファンディング3社の比較
| 得意なジャンル | 手数料(税別) | 実施方式 | |
|---|---|---|---|
| ① CAMPFIRE | オールジャンル(総合型) | 17%(利用12%+決済5%) | All-or-Nothing / All-in |
| ② Makuake | 新商品・国内未発売品 | 20%(決済手数料込み) | All-or-Nothing / All-in |
| ③ GREEN FUNDING | 物販・ガジェット系 | 20%(決済手数料込み) ※スタンダードプラン |
All-or-Nothing |
以下に、各サービスを詳しく解説します。
① CAMPFIRE(キャンプファイヤー)
「CAMPFIRE」は、国内最大級のクラウドファンディングです。累計12万件以上のプロジェクトが立ち上がり、1,500万人以上から1,200億円以上の支援が集まっています。個人やクリエイター、企業、NPO、大学、地方自治体まで、規模やジャンルを問わず利用されています。
手数料は3社の中では低めで、まず幅広い層に商品を届けて反応を見たい場合に向いています。特定のジャンルに寄っていないぶん、対象を絞りきれていない新商品でも試しやすいことが、EC展開の起点としての強みです。
参考:CAMPFIRE
② Makuake(マクアケ)
「Makuake」は、国内未発売の新商品やサービスに特化した応援購入サービスです。新しいもの、こだわりが詰まったものを求めるユーザーが集まり、商品スペックだけでなく開発のストーリーに共感して購入する傾向があります。
全てのプロジェクトにキュレーターがつき、ページやリターンの設計、プロモーションを一気通貫で支援します。新商品の需要を確かめながら初期のファンを獲得できるため、テストマーケティングを兼ねてEC販売につなげたい商品に向いています。
参考:Makuake
③ GREEN FUNDING(グリーン ファンディング)
「GREEN FUNDING」は、物販系の購入型に強いサービスです。TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との提携により成長しており、購入型クラウドファンディングを中心としたプラットフォームです。
オンラインの支援募集だけでなく、CCCグループのネットワークを生かした販路の広がりを特徴としています。物販やガジェットを扱い、実店舗も含めた展開を見据えたい場合に向いています。
クラウドファンディングのメリットとデメリット
ここでは、購入型クラウドファンディングを実施する主なメリットとデメリットについて解説します。
◆購入型クラウドファンディングのメリットとデメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
|
メリットは、資金・需要・認知・販路の面に広がります。商品を作る前に資金と反応を得られるため、EC展開の準備を、確かめられた需要にもとづいて進められます。
プロジェクトが注目されれば、メディアや小売バイヤーの目に留まり、ECだけでなく卸や店頭への販路が広がることもあります。
一方のデメリットは、主にコストと手間、そして資金化のタイミングに関わります。手数料は、ECサイトの一般的な決済手数料と比べると高い水準です。リターンの用意やプロジェクトの運営にも相応の負担がかかります。
また、支援金を実際に受け取れるのはプロジェクトの終了後になるため、先に生産の資金が必要な場合はタイムラグに注意が必要です。特にAll-or-Nothing型を選ぶ場合は、目標に届かなければ不成立になる点も踏まえて、目標金額を設定する必要があります。
これらを踏まえると、購入型クラウドファンディングは、コストと手間をかけてでも、発売前に需要と認知を確かめ、販路を広げたい新商品に向いている方法だと言えます。
クラウドファンディングからEC展開するための3つの施策
クラウドファンディングはEC事業の起点になりますが、起点を売上につなげるには、プロジェクトで得たものを意図的にECへ引き継ぐ必要があります。ここでは、クラウドファンディングからEC展開するための3つの施策について解説します。
施策① 支援者をECサイトの初期顧客・ファンとして引き継ぐ
クラウドファンディングの支援者は、商品に共感して先に購入した人たちです。この関係をプロジェクト終了後もECにつなげるために、具体的には次の3つを行います。
1つ目は、リターンの発送時に、自社ECサイトやSNSアカウントへ誘導する案内を同梱することです。商品が届いて満足度が高いタイミングで次の接点を作り、再購入やフォローにつなげます。
2つ目は、プロジェクトの活動レポート機能を使い、一般販売の開始やECサイトの開設を支援者に知らせることです。支援者はすでに商品を知っているため、告知してから購入してもらいやすくなります。
3つ目は、支援者に使用後の感想やレビューを依頼し、許可を得たうえでEC商品ページに掲載することです。実際に使った人の声は、あとからECで商品を知る人が購入を判断する材料になります。
施策② クラウドファンディングでの売れ方をECサイトの品ぞろえ・価格・在庫の判断に使う
クラウドファンディングの結果は、その商品にどれだけ需要があるかを示すデータです。ECに展開する前に、この結果を具体的な判断に使います。
まず、リターンごとの支援数を見れば、どの仕様やカラー、価格帯が支持されたかが分かります。これをもとに、ECで最初に扱う商品構成や価格を決めます。反応が薄かったものを外し、支持された組み合わせに絞ることで、在庫のリスクを抑えられます。
増産や在庫の量は、応援購入の数を基準に見積もります。売れる保証のない量を先に用意するのではなく、確かめられた需要の範囲から始めることで、EC展開の初期のリスクを下げられます。
また、支援総額や達成率、メディアに取り上げられた実績は、積極的にEC商品ページやランディングページに掲載しましょう。「クラウドファンディングで目標の●%を達成」といった実績は、まだ商品を知らない人に安心感を与える裏付けになります。
施策③ プロジェクト後も売り続ける導線を作る
クラウドファンディングは期間限定ですが、需要が確かめられた商品は、その後も売り続ける必要があります。クラウドファンディングのプラットフォームによっては、プロジェクト後の継続販売を支援する仕組みも用意されています。
例えば、Makuakeは、プロジェクト後の一般販売を支援する「Makuake STORE」を、楽天市場やYahoo!ショッピングなどのECモール内に出店する形で提供し、EC販売やプロモーション、物流を代行して継続的な販売を支えています。
このような仕組みを使うか、自社ECサイトへ移行するかを早い段階で決めておくことが、クラウドファンディングを一度きりで終わらせないポイントです。
これら3つの施策により、クラウドファンディングを単発の資金調達で終わらせず、EC事業へと接続することが可能になります。
まとめ
クラウドファンディングは、新商品の認知を広げ、発売前に需要を確かめ、共感する最初の顧客と実績を得られる方法です。そこで得たものをECでの継続販売に引き継げば、一度きりのプロジェクトで終わらせずに、EC事業へとつなげられます。
ただし、この一連の流れを自社だけで進めるのは簡単ではありません。どの商品でクラウドファンディングを実施するかという計画から、実施方式やサービスの選定、プロジェクト後のECサイト構築、集客、運用改善まで、判断と作業が続きます。
このような場面で活用できるのが、インターファクトリーが提供するEC支援サービス「EBISU GROWTH」です。EC戦略PMがEC事業責任者の代わりとなり、戦略の立案からECサイトの構築、集客、運用改善までを一貫して支援します。
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