ECサイト担当者のためにアプリ施策を徹底解説(開発・ダウンロード・利用率向上)

ECサイトアプリにしてユーザーのロイヤリティを高め、売上促進につなげようと考えているのではないでしょうか?

ECサイトをアプリ展開するのは難しくありません。昨今では、1か月程度あればアプリ化できるクラウドのプラットフォームもリリースされております。

しかし、ECサイトが新規顧客への接点の場とすれば、アプリは既存顧客への接点の場です。自社商品やブランドが好きなリピーターのために、パーソナライズされた情報を提供してロイヤリティを向上させていくために、アプリは必要となります。

なぜなら、ECサイトの売上を安定させるのは新規顧客ではなくリピーターであり、ロイヤリティ施策の土台をつくるためにも、ユーザーが日常的にアクセスしやすいアプリ施策は有力な施策となるからです。

本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、ECサイトのアプリ展開について詳しく解説します。

ECサイトとアプリの比較

まず、ECサイトとアプリを比較して、それぞれの役割を明確にしましょう。以下の表をご覧ください。

◆ECサイトとアプリの比較

ECサイト アプリ
Google検索 検索結果に表示される 検索結果に表示されない
滞在時間 短い 長い
プッシュ通知 ブラウザの機能で技術的に可能だが利用者は少ない 可能
機能性 アプリのようにデバイスの機能を使うのは難しい カメラや位置情報などデバイスの機能を利用できる
パーソナライゼーション ログイン情報やCookieを利用することで可能 利用状況に応じて可能

この表を見ると、Googleの検索結果にアプリを表示させることはできませんが、アプリのメリットとしては、ユーザーの滞在時間が長いことやプッシュ通知が可能など、アプリをダウンロードしてもらうことに成功すれば、ユーザー一人一人にあわせたパーソナライズ施策を実施することが可能になる点があります。

しかし、プッシュ通知するだけのアプリでは、ユーザーはアプリをアンインストールしてしまいます。「MGRe(メグリ)」を提供する株式会社ランチェスターが実施した調査によると、「自分に関係のない通知がきた」ことを理由にアプリをアンインストールしたと答えたユーザーは約3割でした。

参考:MGRe(メグリ)「ニュースリリース|【ブランドアプリのアンインストールの理由ランキング】「そのブランドで買い物をしなくなったから」45.3%、「何度もログイン情報を入力させられたから」36.8%、「自分に関係のない通知がきたから」28.4%」(2021年12月14日発表)

この記事を読んでいるあなた自身も経験があると思いますが、多くのアプリは簡単にアンインストールや削除することができてしまいます。以下の理由は特に経験が多いのではないでしょうか?

◆アプリをアンインストールや削除する理由

・自分に関係のない通知がきたから
・通知量が多かったから

せっかくアプリをインストールしてもらっても、ユーザーにとって関係のない情報を送ってしまうと、アプリを削除されてしまいます。

そのためアプリにおいては、ロイヤリティを高めるためにパーソナライズされた情報を発信する工夫が必要となります。

では、そのようなアプリをどのように作るべきか、ECサイトをアプリ化するためのステップを一つずつ解説します。

ECサイトをアプリ化するための4つの開発手法

アプリ開発するためには以下の4つの手法があります。ここでは、各手法についてメリットとデメリットを解説します。

① ネイティブアプリ
② ハイブリッドアプリ
③ Webアプリ
④ PWA(プログレッシブウェブアプリ)

予算と体制が組める場合はネイティブアプリがベストですが、ECサイトの場合は商品ページも多いので、ハイブリッドアプリが有力な選択肢となると筆者は考えます。

① ネイティブアプリ

ネイティブアプリはアプリにおいて最もスタンダードな開発手法です。以下のようなメリットがあります。

◆メリット

・デバイスのカメラやGPS機能が使える
・App StoreやGoogle Play ストアでダウンロードできる
・アプリの動作が早い
・デバイスのホーム画面にアイコンが設置される

このように、ユーザーが最も親しんでいるアプリの形式であるために、ユーザーも直観的にアプリにアクセスして利用することができます。デメリットは以下のような点です。

◆デメリット

・開発費が300万円以上かかる
・アプリをアップデートするたびに審査が必要
・iPhoneとAndroidで開発環境や審査が異なる

つまり、ネイティブアプリのデメリットは、端的に言うと手間と費用がかかるという点です。

このため、ネイティブアプリ開発は予算と体制が組めるECサイト事業者でないと実現はできませんが、予算と体制が組めるのなら、ユーザーにとって最高のUI・UXを提供できるのもネイティブアプリの長所です。

注意点は、商品数の多いECサイトをネイティブアプリで作ろうとすると、かなりの金額がかかり、また運営の手間もかかるため、商品数などの観点からネイティブアプリなのか、あるいは次に解説するハイブリッドアプリが良いのかを考えなくてはなりません。

② ハイブリッドアプリ

ハイブリッドアプリは、ネイティブアプリとWebアプリの中間にあたるアプリであり、ネイティブアプリよりも開発費用を抑えられる大きなメリットがあります。

◆メリット

・ネイティブアプリよりも開発費用が安い
・OSを気にする必要がない
・ネイティブアプリと同様にカメラやGPS機能が使える

しかし、ネイティブアプリと違い、以下のようなデメリットがあります。

◆デメリット

・Webアプリ部分の動作が遅い
・アプリ開発とWeb開発の両方が求められる

ハイブリッドアプリは、ネイティブアプリの開発費が捻出できない場合や、あるいは既存のWebページ(ECサイトやブログ)をアプリに組み込んで、アプリとECサイトの運営を効率化したい場合に利用されます。

特にECサイトの場合、商品ページ部分でWebページを使うことで、ハイブリッドアプリの長所を生かすことができます。

③ Webアプリ

Webアプリは、費用を抑えることができる開発手法です。最大のメリットは、WebアプリベースのためiPhoneやAndroidなどOSごとにアプリを開発する必要がなく、審査もないので自由に開発できる点です。

◆メリット

・Webベースのため全てのOSに対応(iPhone、Android)
・審査がないため自由に開発できる

しかし、Webアプリはアプリインストールという考え方がないので、ユーザーのスマートフォンのホーム画面に追加してもらう工夫が必要であり、ネイティブアプリやハイブリッドアプリと比べると、「アプリという感覚」に乏しいデメリットがあります。

◆デメリット

・ホーム画面に追加してもらう工夫が必要
・ネット回線が常に必要であるため、ネイティブアプリやハイブリッドアプリより遅い

このように、Webアプリは開発費が安くて手軽なメリットがありますが、ユーザーに何度も使ってもらえるように、ホーム画面に追加してもらう工夫が必要となります。

そのため、Webアプリであってもアイコンを用意しておき、ホーム画面に追加されやすい状況を作らなければいけません

④ PWA(プログレッシブウェブアプリ)

PWAは、URLからアプリを起動することができます。もっと簡単に説明すると、PWAにアクセスすると、Webページがアプリのように動く仕組みのことです。比較的新しい技術であるため専門的知識が必要となります。

◆メリット

・iOSやAndroidなどのOSに対応
・キャッシュを利用するので動作が早い
・ECサイトの動作が速くなるためCVが増える
・審査がないので開発が自由
・ネイティブアプリより開発費が安い

しかし、動作が早いPWAも以下のようなデメリットがあります。

◆デメリット

・iOSではプッシュ通知が使えない
・インストール型ではないので、ホーム画面にアイコンを設置してもらう工夫が必要

PWAはWebアプリのデメリットであった、動作が遅い点が改善されておりますが、日本では多くのユーザーが利用しているiPhoneでプッシュ通知が使えないというデメリットがあります。

もしECサイトでPWAを実現できれば、読み込み速度が早くなることでサイト全体の滞在時間や閲覧ページが大幅に増えて、CVRの向上に役立ちます

以下は、フランスの化粧品会社の事例ですが、ECサイトをPWAにしたことでコンバージョン数が17%も改善したことが報告されております。

参考:web.dev「Lancôme、モバイルサイトを PWA として再構築したことで、コンバージョン数が 17% 増加

そのフランスの化粧品会社のECサイトが以下ですが、確かにサイトの表示速度が早いことが体感できます。

参考:PWAを使ったECサイト「Lancôme

このように、ECサイトにおいては、PWAを選択することでGoogleのSEOの評価が上がったりするなど、他のアプリ開発手法では得られない効果が見込めますが、新しい開発手法のため開発コストがかかったり運用に手間や費用がかかることになります。

アプリをダウンロードしてもらうための3つの施策

アプリの開発以上に大切なことは、アプリをダウンロードしてもらうための工夫です。ここでは、アプリダウンロードを促進するための3つの施策を解説します。

施策① ECサイトや公式サイトでアプリダウンロードを訴求する

もっともスタンダードな方法は、ECサイトや公式Webサイトでアプリダウンロードを訴求することです。単に専用バナーを作ってダウンロードを訴求するだけではなく、以下のようなユーザーメリットをあわせて訴求します。

◆ECサイトで訴求すること

・最新情報の紹介
・クーポンやポイント訴求
・送料無料(アプリ限定)

そうすることで、ECサイトからでも購入できる商品をアプリを使って購入してくれるユーザーも増えるはずです。

施策② 店頭でアプリダウンロードを訴求する

店舗がある事業者に限定される施策ですが、店舗のポップやレジ周りにアプリダウンロードを訴求するだけでなく、決済や接客の際にスタッフがお客様に直接ダウンロードを訴求します。

その際は以下のようにメリットを訴求してみましょう。

◆店頭での訴求例

・クーポンやポイントプレゼント
・初回購入限定割引

店頭スタッフであれば、お得意様もいるはずですので、そういった方にもおススメすることで、店舗とECサイトをあわせた施策を実施しましょう。

ただし、ここで注意したいのが、アプリをダウンロードしてクーポンやポイントを得るまでの手順をできるだけ短く簡単にすることです。

店頭では、お客様もそれほど時間はありませんし、決済を待つ他のお客様もいます。せっかくアプリをダウンロードしても、いちいち名前や住所、電話番号やメールアドレスを入力して、会員登録を行わなければいけないとなると、ほとんどのお客様は手間に感じてしまうでしょう。

そこで、店頭では名前とアドレス程度を入力すれば特典を得られるようにして、あとでゆっくり会員登録できるような仕様にするべきです。

施策③ ASO対策(App Store Optimization:アプリストア最適化)

ASOと呼ばれる、App StoreやGooglePlayで検索した時に上位に表示されるための対策を行うことです。App StoreとGooglePlayでは対策方法は異なりますが、おおまかには以下のような対策が挙げられます。

◆ASO対策

・アプリ名やアプリ説明文
・アプリアイコン
・レビュー数
・ダウンロード数

筆者はASOを実施したことがありませんが、アプリ名やアイコンが検索しやすく、かつ利用しやすいアプリを作ることがASOにもつながります。

しかし、ECサイト事業者の場合はゲームやお役立ちアプリというわけではないので、まずは「アプリ名」で検索した時に、確実に1位に出るように対策しておくべきでしょう。

アプリを利用してもらうための5つの施策

最後に、アプリをインストールしたユーザーに頻繁に利用してもらう施策が必要となります。ここでは5つの施策を解説します。

施策① 購入履歴や閲覧ページをもとにしたプッシュ通知

プッシュ通知が可能だからといって、アプリをインストールしている方全員に毎日のように情報発信すると、アンインストールや削除も増えてしまいます。それを防ぐために、ユーザー一人一人にあった情報を配信すべきです。

そのために、過去の購入履歴や閲覧ページをもとにしたプッシュ通知を行いましょう。例えば、購入や閲覧した商品のカテゴリごとにプッシュ通知の内容を変えてみるだけでも、成果は全く変わってきます。

これを実施するためにはMAツールが必要となるので、MAツールとのアプリ連携を実施しましょう。

施策② アプリ限定のクーポンやキャンペーン施策

ECサイトのアプリである以上、ユーザーは1円でもお得に買い物したいはずです。そのためアプリ限定のクーポンやキャンペーン施策を準備します。

一方でECサイトの方では、「アプリ限定キャンペーン」を並行して訴求することで、あわせてアプリダウンロードを訴求することができます

アプリで購入することで常にメリットがあるということを演出できれば、利用率も高まります。

施策③ アプリのUIを徹底改善する

筆者が好きなECサイトのアプリは「ニトリ」です。以下をご覧ください。

◆ニトリのアプリ画面

ニトリアプリUI

出典(画像):ニトリアプリ│ニトリネット【公式】

写真でも分かるとおり、ニトリのアプリは非常にUIが良いため、まるで店舗のように商品を比較検討したり、色のバリエーションを比較することができます

もし、ネイティブアプリで開発する場合は、ネイティブアプリのメリットを生かして、アプリのUIやスピード感を高めることで、UIのみならず購入体験まで高めることができます。

施策④ 口コミやレビューを見やすくする

ECサイトで、購入の決め手となる最も大きな要素の一つはレビュー欄です。そのためアプリにおいても口コミやレビューを見やすく作ることで、利用率が上がります。

筆者の経験ですが、特に女性ユーザーは、化粧品や美容用品に関して口コミを重要視していることが多く、口コミを見やすくすることで自然とアプリの利用率は上がるはずです。

施策⑤ 毎日ログインしたくなるゲーム要素を入れる

下記はECサイトではないのですが、筆者が大好きな「焼肉屋くいどん」アプリです。このアプリの特長は、スクラッチゲームがついており1日1回スクラッチをすることができ、最低でも1ポイントを得ることができます。

◆くいどんアプリ

出典(画像):「国産牛焼肉くいどん」の公式アプリの画像を筆者が加工して作成

筆者は空いた時間にスクラッチをすることで、毎日1~3ポイントをゲットしており、また焼肉屋くいどんに行くことが多いため、このように自然とアプリ利用回数が増えて、ロイヤリティも高まっております

焼き肉屋と比べてEC事業者の方が単価が安く利幅が少ないため、このような施策は難しいかもしれませんが、もし実現できればアプリ利用率が高まる施策とも言えるので、ゲーム要素を入れることを企画してみましょう。

アプリマーケティングを実践する

アプリ運営が始まったら、プッシュ通知などのアプリでこそ可能なアプリマーケティングを実践してみましょう。以下のようなマーケティング手法があります。

① プッシュ通知でポイントやクーポン訴求
② アプリ内にEC機能(あるいは予約、取り置き機能)の設置
③ 店舗受取ができるようにする
④ 位置情報分析によるマーケティング
⑤ アプリを開いた時のバナー表示
⑥ お気に入り登録機能
⑦ アプリ(EC)と店舗のポイント連携機能

これらの施策については以下の記事でまとめているので、あわせてご覧ください。

関連記事:7つの代表的アプリマーケティング施策をプロが解説

まとめ

ECサイトを作っただけでは売上があがらないのと同じで、アプリも設置するだけで売上があがるわけではありません。常にユーザー目線に立って、アプリをEC事業全体の中でどのように位置づけて、ユーザーに利用してもらうかが大切です。

また、アプリ施策で上手くいっている企業の情報を集めて、ECサイトの事業に取り入れてみましょう。

なお、株式会社インターファクトリーでは、EC支援サービス「ebisu growth」でEC事業の継続的な成長のサポートを行なっております。

ECサイト運営における基本的なマーケティング手法から、本記事で解説したようなアプリマーケティングなど、さまざまなECノウハウが豊富なサポートサービスです。

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表。 株式会社インターファクトリーのWebマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」では、ECサイトの初心者向けに特に集客方法について解説。